こんにちは、蝶まめです。
今回紹介するのは、宮部みゆきさんの『地下街の雨』です。
📖 読書天気:曇り☁️
日常に薄い影が差し、人間の見たくない部分がじわじわと浮かび上がる。
この本を手に取った理由は、とても単純です。宮部みゆき作品だから。
読み終えてまず思ったのも、やはり「宮部作品だからねえ」ということでした。
どの話も不思議で、どこか怖い。残酷なことをさらりと書いてしまうのに、決して大げさに煽らない。その静けさの奥に、人間の本質が見えてくる短編集です。
こんな人におすすめ
- 人間の怖さを描いた物語が好きな人
- 日常と怪異の境目が曖昧な短編を読みたい人
- 読後に意味を考えたくなる物語が好きな人
- ホラー、ミステリー、幻想など、異なる味わいの短編を楽しみたい人
- 宮部みゆきさんの初期作品に触れてみたい人
七編はそれぞれ雰囲気も仕掛けも異なります。
怖さの正体が見えてくる話もあれば、読み終えても答えをつかみきれない話もある。
分かりやすい爽快感より、じわじわと残る不穏さを楽しみたい人に向いています。
『地下街の雨』はどんな本?
婚約破棄をきっかけに、それまでの生活を離れた麻子。
八重洲の地下街にある小さな喫茶店で働きながら、心に降り続く雨を抱えて暮らしている。
そんな麻子の前に、ある女性が現れる――。
表題作「地下街の雨」をはじめ、見慣れた日常がふいに姿を変える七編を収録。
恋愛、ミステリー、ホラー、幻想と、物語ごとに異なる顔を見せながら、都会の片隅で生きる人々の心を映し出していく。
不思議なのに、他人事には思えない
この短編集の怖さは、幽霊や怪物が襲ってくる怖さとは少し違います。
どの話にも不思議な出来事が起こります。
それなのに、まったく現実離れしたものには感じられません。
怪異の向こうに見えるのが、思い込みや嫉妬、身勝手さ、悪意、孤独といった、人間がもともと持っているものだからです。
現実では、誰もが見たくないものにフィルターをかけながら生きています。
自分の中にある感情も、身近な人の危うさも、すべてをまともに見ていたら日常を送れないのかもしれません。
宮部みゆきさんは、そのフィルターを静かに一枚だけ外します。
「ほら、もともとここにあったでしょう」とでもいうように。
だから、どの物語も不思議なのに、他人事として切り離せませんでした。
残酷なことを、さらりと見せる
宮部みゆきさんは、なかなか残酷なことをさらりと書きます。
特別な悪人だけを描くのではなく、普通に暮らしている人の善意や思い込みが、ふと危ういものへ変わる瞬間を見せる。その語り口が落ち着いているからこそ、かえって怖く感じました。
表題作「地下街の雨」も、読み始めに感じた不穏さが、少しずつ別の表情を見せていきます。
何が正しくて、誰の行動が間違っていたのか。
簡単には割り切れないところまで含めて、人間なのだと思います。
「決して見えない」では、その発想のすごさに驚きました。
読み終えたあと、何気ない出会いまで少し違って見えるような物語です。
語り方まで違う七つの物語
収録作は、物語の内容だけでなく、見せ方もさまざまです。
なかでも「不文律」は、今読むとモキュメンタリーのような面白さがありました。
人々の言葉が積み重なるにつれて、一つの出来事の輪郭が見えてくる。
しかし、語る人によって見えているものも、受け取り方も違います。
事実そのものだけでなく、人間がそれをどう解釈し、どう語るのか。
その部分に怖さが潜んでいました。
「混線」は、昔の電話を知っているからこそ想像できる怖さがあります。
電話線の向こうには誰かがいる。
でも、その姿はこちらからは見えません。
私も昔、電話線の向こう側を想像したことがあったような気がします。
だから展開を予想できた部分があっても、見えない向こう側を思う不気味さは、しっかり残りました。
分からないことまで、怖さとして残る
七編の中で最も「何だったの?」と戸惑ったのが、「ムクロバラ」です。
読み終えても、はっきりと意味をつかめませんでした。
自分の読み方がおかしいのか、それとも、その戸惑いまで含めて狙った物語なのか。
考えるほど足元が曖昧になっていきます。
けれど、分からないものを、分からないまま残されることも怖い。
正体をつかみ、名前を付け、「これは自分とは違うものだ」と切り離せれば安心できます。
「ムクロバラ」は、その安心を与えてくれない物語でした。
「さよなら、キリハラさん」では、ある日突然、家の中から音が消えてしまいます。
普段は意識していない生活音まで失われた世界を想像すると、それだけで怖くなりました。
同じ場所にいても、聞こえている世界が違えば届かないものがある。
少し不思議な物語の中に、孤独について考えさせられる部分もありました。
宮部みゆきさんの短編集では、『とり残されて』でも、人の「おもい」が生む怖さや不思議さが印象に残りました。
https://butterfly-pencil.com/torinokosarete-miyabe/
まとめ|「宮部作品だからねえ」と言いたくなる短編集
『地下街の雨』を読み終えた感想は、結局この一言に戻ります。
宮部作品だからねえ。
残酷なことを、驚くほどさらりと書く。
でも、それは特別な怪物の残酷さではありません。
私たちが見たくなくてフィルターをかけている、人間の一部です。
怪異の向こうに見えるのは、思い込み、孤独、善意、悪意、そして自分にもあるかもしれない危うさ。
だから、どの話も不思議なのに他人事ではなく、読後には曇り空のような薄暗さが残りました。
人間の怖さを描く物語が好きな人に、読んでほしい一冊です。
