こんにちは、蝶まめです。
今回紹介するのは、宮部みゆきさんの『とり残されて』です。
📖 読書天気:霧🌫️
怖い、切ない、温かい。
そのどれか一つでは言い切れない不思議さが、読み終えたあとも輪郭をぼかしたまま残る一冊でした。
『とり残されて』を最初に読んだのは、20年以上前。
先日あらためて読み返してみたのですが、不思議なことに作品から受ける印象はあまり変わりませんでした。
「怖い」と言うだけでも違う。
「不思議」だけでも足りない。
長い時間が経っても、やっぱりうまくひと言では説明できない。
そんな独特の読後感を残す短編集です。
こんな人におすすめ
- 宮部みゆきさんの短編集を読んでみたい人
- 怖すぎない、不思議な物語が好きな人
- 人間の感情から生まれる怖さを描いた作品が好きな人
- 一話ごとの余韻をじっくり味わいたい人
- 切なさや温かさも残る物語を読みたい人
ホラーと呼ぶには少し違うし、ミステリーだけでもありません。
強い恐怖で驚かせるというより、「これってあり得るかもしれない」と考えたときに、じわじわと怖くなる話もあります。
一話ずつ読みながら、それぞれ違う「とり残されたもの」に触れていくような一冊です。
『とり残されて』はどんな本?

婚約者を事故で亡くし、職場へ復帰した女性教師。
ある日、学校で子どもの足音に気づく。
しかし、目にした子どもは自分が勤務する学校の児童ではない。
やがて学校では事件が起こり、彼女の前に現れた子どもの存在も少しずつ物語へ絡んでいく。
表題作「とり残されて」をはじめ、
「おたすけぶち」
「私の死んだ後に」
「居合わせた男」
「囁く」
「いつも二人で」
「たった一人」の7篇を収録した短編集。
日常のすぐ隣にあるような場所から、少しずつ不思議な世界へ足を踏み入れていく物語が並ぶ。
怖いのは、やっぱり「人間」だった
読みながら感じるのは、「面白い!」「怖い!」という分かりやすい感情より、とにかく不思議だということでした。
でも、ただ不思議なだけでは終わらないんですよね。
私はホラーやミステリー、スリラーなど「怖い」作品もよく読みます。
それでも結局、一番怖いと思うのは人間です。
『とり残されて』でも、怖さの奥にあるのは、人が抱える「おもい」でした。
生きていくために必要な「おもい」もある。
誰かを大切に思ったり、忘れたくないと願ったりすることも、人が生きていくうえでは必要なのだと思います。
でも、その「おもい」に囚われすぎてしまったら。
どこからが大切に思うことで、どこからが執着なのか。
その境目は、思っているより曖昧なのかもしれません。
宮部みゆきさんの『地下街の雨』を読んだときにも、私には「人間の怖さ」が強く残りました。
同じ宮部みゆきさんの短編集でも、その怖さの残り方は少し違います。

「とり残された何か」が7篇をつないでいる
表題作の『とり残されて』を読んでいると、「そこまでになってしまうのか」と怖くなります。
でも、まったく現実離れしたものとして片づけることもできない。
「もしかしたら、ここまで囚われてしまうこともあるのかもしれない」
そう思えるところが、余計に怖いのかも。
表題作だけではなく、ほかの物語にも「とり残された何か」を感じました。
何が残されているのか。
誰が、あるいは何が、とり残されているのか。
そこを具体的に書いてしまうと、それぞれの物語を読む楽しみを奪ってしまいそうなので、ここでは触れません。
ただ、7篇を読み終えたあとにタイトルの『とり残されて』をもう一度見ると、最初とは少し違って見える。
そんな一冊でした。
まとめ
『とり残されて』を読むまで、私は「とり残される」と聞けば、迷子や忘れ物のようなものを思い浮かべていました。
でも、この本にある「とり残される」は、同じ言葉なのに少し違います。
人の「おもい」。
過ぎていく時間。
そこに残ってしまう何か。
怖さだけではなく、切なさやつながり、そして温かさもありました。
だからこそ、読み終えても「結局これはどんな話だったんだろう」と簡単には言い切れません。
20年以上経って読み返しても、やっぱり残ったのは、その不思議な感覚でした。
霧の中に何かが見えているのに、はっきりとはつかめない。
そんな読書を楽しみたいときに、手に取ってほしい一冊です。
