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『夜市』感想|怖いのに懐かしい。恒川光太郎が描く美しい異界

恒川光太郎『夜市』の幻想的な夜の市場を描いたアイキャッチ 本を読む

こんにちは、蝶まめです。

今回紹介するのは、恒川光太郎さんの
『夜市』。

📖 読書天気:霧🌫️
懐かしい景色の向こうに何が潜んでいるのかわからない。それでも、もう少し先へ進んでみたくなる一冊。

もしも、何でも手に入る不思議な市場があったら、あなたは何を求めますか?

私は「継続力」が欲しいところですが、もちろんタダではありません。

欲しいものを手に入れるために、何を差し出さなければならないのか。

そう考えると、簡単には選べませんよね。

『夜市』は、怖いのにどこか懐かしく、薄暗いのに美しい物語です。

何度読んでも、その不思議な世界と切なさに圧倒されます。

こんな人におすすめ

  • 不思議で薄暗い世界観が好きな人
  • 怖いだけではないホラーを読みたい人
  • ファンタジーとホラーが融合した物語が好きな人
  • 短い物語でも、深い余韻を味わいたい人
  • 日常のすぐ隣にある異界へ迷い込んでみたい人


ホラーといっても、突然驚かせたり、強い恐怖で押してきたりする作品ではありません。

怖いだけではなく、どこか懐かしくて美しい。そんな不思議な世界に、静かに迷い込みたい人におすすめしたい一冊です。



『夜市』はどんな本?

大学生のいずみは、友人の裕司に誘われ、不思議な市場「夜市」を訪れます。

そこに並んでいるのは、私たちの世界では見かけないものばかり。

店の間を歩いているのも、普通の人間だけではありません。

なぜ裕司は夜市を知っているのか。

そして、なぜいずみを連れてこの場所へ来たのか。

にぎやかな市場の奥に隠された裕司の思いが、少しずつ見えてきます。

本書には、表題作「夜市」と「風の古道」の2編が収録されています。

物語につながりはありませんが、どちらも日常のすぐ隣に存在する異界を描いた作品です。

感想|怖いのに、どこか懐かしい

『夜市』は、「めちゃくちゃ怖い!」と飛び上がるようなホラーではないんですよね。

何かがおかしい。

でも、何がおかしいのか、うまく説明できない。

そんな違和感が、じわじわと近づいてくるような怖さです。

屋台の匂い。
湿った空気。
薄暗い灯り。

普通に歩いているのは、自分と同じ「人」ではない何か。

現実には存在しないはずの場所なのに、空気や匂いまで感じられるような妙な現実味があります。

そして不思議なことに、初めて訪れたはずの場所なのに、なぜか懐かしい。

子どものころに見た夢や、夕暮れまで遊んでいて急に心細くなった瞬間を思い出すような世界です。

いつの間にか異界へ足を踏み入れている。

そんな恒川光太郎さん独特の世界が、短い物語の中に濃密に詰め込まれています。

欲しいものには、代償がある

何でも売っている夜市。

欲しかったものが目の前に並んでいたら、心が動かない人はいないと思います。

でも、何かを手に入れるためには、それに見合う代償が必要。

その代償を知ったときにも、同じものを欲しいと思えるのか。

それとも、手に入れることを諦めるのか。

誰かの選択を外から見れば、「どうしてそんなことを」と思うかもしれません。

けれど、迷い込んだのが自分だったら。

そのときの自分にとって、どうしても欲しいものがあったとしたら。

同じ選択をしないとは言い切れません。

『夜市』に残るのは、異界への恐怖だけではありません。

一度選んでしまったことへの後悔や苦しさ、失ったものを思い続ける切なさ。

物語が進むにつれて見えてくる思いに触れたとき、最初に感じていた怖さの形も変わっていきます。

短い作品だからこそ、結末の余韻が薄まらず、そのまま胸に残るのかもしれません。

何度読んでも「これ以上の作品はない」と思うほど、圧倒されてしまう作品です。

「風の古道」も忘れられない

一緒に収録されている「風の古道」は、表題作「夜市」よりも少し長い物語です。

この世の道から外れた場所に存在する、不思議な古道。

最初は、知らない道を進んでいくワクワク感と不安が同居しています。

この道はどこへ続いているのか。
先には何があるのか。

冒険物語のような始まりに引き込まれますが、読み進めるほどに切なさが募っていきます。

古道には、私たちの世界とは違う決まりがあり、そこを歩く者たちにも、それぞれの事情があります。

異界の物語なのに、完全な作り話として遠ざけることができない。

いつもの道を少し外れたら、今でも古道へ入り込んでしまうのではないか。

そう思わせるところが、恒川ワールドの魅力であり、怖さでもあります。

「夜市」と直接つながる連作ではありません。

それでも、どちらの物語からも、同じ世界のどこかに存在しているような広がりを感じます。

読み終えたあとも、古道に残されたものはどうなるのだろうと、つい想像してしまいました。

恒川ワールドの入口は、ここから

恒川光太郎さんが描くのは、普通のようで普通ではない、不思議な世界です。

異界といっても、遠く離れた別世界にあるわけではありません。

いつも歩いている道の先。
夕暮れの森。
見慣れた街の片隅。

日常からほんの少し外れたところに、静かに存在しています。

だからこそ、「もしかしたら本当にあるのかもしれない」と感じてしまうのでしょう。

ファンタジーの美しさと、ホラーの不気味さ。

そして、取り返せない過去を抱えて生きる人の哀しさ。

そのすべてを味わえる『夜市』は、恒川光太郎さんの作品を初めて読む人にもおすすめです。

まとめ|少し怖くて、とても美しい異界へ

『夜市』は、怖さだけを求めるホラーではありません。

薄暗く不思議な異界を歩きながら、人の後悔や願い、失ったものへの思いに触れる物語。

ちょっと不思議で、少し怖い。
どこか懐かしくて、どうしようもなく切ない。

そして、読み終えたあとに残る景色は、とても美しい。

恒川ワールドは、普通のようで普通ではない世界。

だからこそ、「ありえるかもしれない」という怖さがあります。

まだ見ぬ世界へ、ここから一歩踏み出してみませんか?