こんにちは、蝶まめです。
今回紹介するのは、鈴木光司さんの『エス』です。
📖 読書天気:曇り☁️
真相へ近づいても疑問と不安は消えず、重い秘密を抱えた日常が続いていきます。
読み始めたとき、安藤孝則という名前がなければ「本当にリングシリーズ?」と思ったかもしれません。
『リング』『らせん』『ループ』とは登場人物も出来事も変わり、すぐには世界の位置がつかめない。
けれど、映像の中で起きる異変には、形を変えたホラーがしっかりありました。
『ループ』で一度大きな区切りを迎えた物語が、現代の映像を入り口に再び動き出します。
こんな人におすすめ
- 『リング』『らせん』『ループ』の先を読みたい人
- リングシリーズの新しい展開が気になる人
- 動画や映像を通して広がるホラーが好きな人
- 怖さだけでなく、謎を追う物語を楽しみたい人
- 過去作とのつながりに驚かされたい人
『エス』から新しい物語が始まりますが、過去三作を知らずに読むと見落としてしまう部分があります。
特に終盤の驚きは、これまでのシリーズを読んできたからこそ味わえるもの。
『リング』『らせん』『ループ』のあとに読むのがおすすめです。

『エス』はどんな本?
映像制作会社に勤める安藤孝則のもとへ、インターネットで配信されたという一本の動画が持ち込まれる。
映っていたのは、一人の男が自ら命を絶つ場面。
しかし、その映像には説明のつかない異変があった。
真偽を確かめるため解析を進める孝則。
調べるほどに動画は不気味な変化を見せ、やがて身近な人々を巻き込む出来事へとつながっていく。
見知らぬ動画から始まった謎が、過去のリングシリーズへ近づいていく物語です。
本当にリングシリーズ?と思う始まり
『エス』の冒頭でまず感じたのは、これまでとは世界が違うという戸惑いでした。
呪いのビデオを追った『リング』、科学から恐怖へ近づいた『らせん』、世界そのものが大きく反転した『ループ』。
その続きとして読み始めても、最初はどこにつながるのか見えてきません。
安藤孝則という名前が、かろうじてシリーズとのつながりを感じさせます。
でも、物語が進むにつれて、見覚えのない景色の中にリングシリーズの影が少しずつ現れます。
すぐに答えを見せず、「これは何なのか」と読者にも追わせる始まりは、ミステリーとしての面白さがありました。
勝手に動き、変わっていく動画
『リング』で恐怖を運んだのはビデオテープでした。
『エス』では、それがインターネット上の動画へと形を変えます。
映像を解析するほど、最初にはなかったはずのものが見えてくる。
終わったはずの映像が勝手に動き、少しずつ変化していく。
自分が見間違えたのか。それとも、本当に映像そのものが変わったのか。
画面の向こうで起きているだけのはずなのに、こちら側へ近づいてくるような気味の悪さがあります。
世界観はすぐにつかめなくても、この不穏さは十分にホラーでした。
時代が変われば恐怖を運ぶ媒体も変わる。
ビデオテープから動画へ移っても、「見てしまった」という怖さは残っています。
知ってしまった秘密と、その先の日常
謎が明らかになれば、恐怖から解放されるとは限りません。
孝則は、簡単には受け止めきれない事実を知ることになります。
それは自分一人の秘密ではなく、大切な人や、これから続いていく家族の日々にも関わるものです。
知らなかった頃には戻れない。
それでも、疑問や不安を抱えたまま日常を生きていかなければならない。
事件が解決したように見えても、その先にある暮らしは決して軽くありません。
恐怖のあとに平穏が戻るのではなく、重い秘密を抱えた日常が始まる。そ
の曇り空のような読後感が残りました。
『タイド』まで読むと生まれる疑問
『エス』の次に『タイド』まで読むと、この物語の見え方はもう一度変わります。
『エス』を読んでいる間は、ある人物が抱く恐怖を、そのまま受け止めていました。
でも背景を知ってから振り返ると、本当に恐怖だけだったのだろうか、と疑問が残ります。
その人自身の感情だったのか。
それとも、誰かを決められた場所へ導くために、そう感じる必要があったのか。
作品の中で答えが明言されているわけではありません。
だからこそ、シリーズを最後まで読んだあとにも考え続けてしまいます。
新しい物語であり、続いていた物語
『エス』は、続編でありながら、それまでの三作で重ねてきた世界観と繋がりそうで繋がらない…
新しい登場人物と新しい事件から始まり、一度は別の作品を読んでいるように感じました。
それでも、物語の奥には過去作から続く選択と因縁があります。
誰かを救うための行動が、別の恐怖を生む。
自分にとって大切なものを守ろうとした結果が、他の誰かに重い運命を背負わせる。
シリーズを通して見ると、貞子だけが恐怖のすべてではありません。
善意や愛情、自己犠牲さえも、立場が変われば恐怖の原因になり得ます。
『エス』は、終わったと思っていたリングシリーズを、違う場所からもう一度始める一冊でした。
まとめ|動画の向こうから戻ってきた恐怖
『エス』は、首吊り動画に起きる異変から始まり、リングシリーズの新しい物語へつながっていきます。
読み始めは世界観をつかめず、本当に続編なのかと戸惑いました。
けれど、勝手に動き、変化する映像の不気味さには、現代へ姿を変えたホラーがあります。
やがて過去作とのつながりが見えたとき、新しい物語だと錯覚していたものが、ずっと続いていた因縁の中にあったと分かります。
ただし、真相を知っても気持ちは晴れません。
重すぎる秘密を抱えながら、それでも日常は続いていく。
そして『タイド』まで読むと、分かったと思っていた感情にも、もう一つの疑問が生まれます。
『リング』の先を最後まで見届けたい人に、次の『タイド』と続けて読んでほしい一冊です。『

