こんにちは、蝶まめです。
今回紹介するのは、伊与原新さんの『青ノ果テ〜花巻農芸高校地学部の夏〜』です。
📖 読書天気:晴れ☀️
明るいだけではないけれど、読み終えたあとにはちゃんと晴れ間が残る一冊。
伊与原新さんの作品が好きで、まだ今ほど名前を見かけなかった頃からいろいろ読んできました。
当時は書店に置いていないことも多く、取り寄せてもらうこともしばしば。
それが直木賞受賞後は、過去作までずらっと並ぶようになり、「伊与原新」のプレートまで見かけるように。
ずっと読んできた側としては、なんだか不思議な感じです。
『青ノ果テ』も、以前はなかなか見つからず、やっと手に入れた一冊でした。

そしてもうひとつ、私が小さい頃から好きだったのが宮沢賢治。
特に『注文の多い料理店』が好きで、よく読んでいましたね。
それが宮沢賢治の作品だと知ったのはずいぶん後のことです。
そのくらい昔から触れてきた宮沢賢治と、好きな作家である伊与原新さん。
そこに地学まで加わるとなれば、私にとってはかなり好みの重なった一冊でした。
こんな人におすすめ
- 伊与原新さんの作品が好きな人
- 宮沢賢治作品が好きな人
- 地学や科学が自然に物語へ溶け込む小説が好きな人
- 高校生たちの友情や葛藤を描いた青春小説を読みたい人
- 人を単純に善悪だけで分けられない物語が好きな人
宮沢賢治作品を知らなくても読めますが、知っているほうが楽しめる作品だと思います。
作中の言葉やモチーフについていきやすくなるだけでなく、これまで持っていた作品や登場人物への印象が少し変わるかもしれません。
地学も同じで、専門知識がなければ分からないという書き方ではありません。
科学を物語の中に自然に溶け込ませるところは、やっぱり伊与原新さんらしいです。
『青ノ果テ』はどんな本?

岩手県花巻市の高校を舞台にした青春小説。
東京から転校生がやってきたことをきっかけに、主人公・壮多と幼なじみの七夏、それぞれの日常が少しずつ揺れ始める。
やがて壮多たちは、宮沢賢治ゆかりの土地を巡る自転車旅へ出る。
花巻の風景や地学、『銀河鉄道の夜』を思わせる言葉やモチーフを重ねながら、高校生たちのひと夏を描いていく。
感想|誰もがジョバンニであり、ザネリでもある
この作品で特に印象に残ったのは、『銀河鉄道の夜』の登場人物たちの見え方が変わったことでした。
私はずっと、
ジョバンニは善。
ザネリは悪。
カンパネルラは、ほとんど完璧な善。
そんなふうに見ていた気がします。
ジョバンニは働きながら学校へ通い、周囲からからかわれる側。
ザネリはその反対で、いじめる側のように映ります。
だから、どうしても「かわいそうなジョバンニ」と「意地悪なザネリ」に分けて考えていました。

でも、少し見方を変えると、それほど単純ではないんですよね。
ジョバンニにだって悪い部分はある。
ザネリも、すべてが悪いわけではない。
そしてカンパネルラも、絶対的な善としてだけ見られる人物ではない。
誰か一人を「善」、もう一人を「悪」と決めてしまえば分かりやすい。
けれど、人ってそんなにきれいに分けられるものではありません。
ある場面ではジョバンニでも、別の場面ではザネリになることがある。
『青ノ果テ』を読んで、そんな当たり前のことを改めて突きつけられた気がしました。
「カンパネルラが死なない未来」の、その先
もうひとつ、強く残ったのが「カンパネルラが死なない未来」という言葉です。
もしカンパネルラが死なない未来があったとしたら。
ジョバンニ、ザネリ、カンパネルラの三人は、その先をどう生きたんだろう。
同じ場所にいたのか。
離れていったのか。
どんな関わり方をして、大人になったのか。
そんなことを考えました。

物語の中で一度決まった役割も、その先の時間まで同じとは限りません。
ジョバンニはずっと「かわいそうな善」で、ザネリはずっと「悪い側」なのか。
カンパネルラは、ずっと完璧な存在だったのか。
死なない未来を想像すると、むしろ三人がもっと普通の人間として見えてくる気がします。
「カンパネルラが死なない未来」という言葉が心に残ったのは、その先にあるはずだった時間まで考えさせられたからかもしれません。
宮沢賢治を、また読みたくなった
『青ノ果テ』を読むまで、私は「宮沢賢治=地学」と強く意識したことがありませんでした。
でも、よく考えれば確かにそうなんですよね。
作品に出てくる星や石、自然や風景。
知っていたはずなのに、地学という角度から見たことはありませんでした。

伊与原新さんの作品を読むと、見慣れていたものが少し違って見えることがあります。
今回は、それが宮沢賢治でした。
小さい頃から好きだった作品も、今の自分で読み返したら、昔とはまた違うものが見えるかもしれない。
『注文の多い料理店』も、『銀河鉄道の夜』も、改めて読みたくなりました。
まとめ|好きだった作品まで、見え方が変わる
『青ノ果テ』は、地学や宮沢賢治を題材にしながら、高校生たちの感情や関係を描いた物語でした。
高校生にしては大人びているな、と感じる場面もあります。
でも、大人なら流してしまうことに気づいたり、うまく割り切れないからこそ傷ついたりするのも、あの年代ならではなのかもしれません。
私にとっては、昔から好きだった宮沢賢治作品の見え方まで少し変わった一冊でもありました。
科学や地学から入って、最後に残るのは人のこと。
やっぱり、こういう伊与原新さんの作品が私は好きです。
伊与原新さんの作品をもう一冊読みたい方には、『宙わたる教室』もおすすめです。
科学をきっかけに、人と人との関わりや、それぞれが抱えているものを描いているところは、『青ノ果テ』にも通じるものがあります。

